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シスプラチン (CDDP) 投与における有害事象の遺伝的素因からのリスク評価に関するレビュー

Genetic and Modifiable Risk Factors Contributing to Cisplatin-induced Toxicities
(Trendowski MR et al. Clin Cancer Res 2019; 25: 1147-55)

多数の分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬が登場した現在においても、今なお白金製剤は多くの固形がんにおける標準治療に組み込まれている。
そして、白金製剤の代表格であるシスプラチンは、古くより多数の有害事象について、その管理について多くのがん診療スタッフが悩まされている薬剤でもある。
2015 年の ASCO で(シスプラチン併用療法が標準治療戦略の筆頭にあり続けている)頭頸部がんの discussion の際に、演者の先生が冒頭で "There is one universal truth in Head and Neck Oncology: Everyone hates cisplatin." と宣言したのは今でも印象に残っている。

無事会期が終了したので参加報告まとめ。個人的には 2011 年の ASCO 以来の米国出張。ここ数年は海外出張先はあっても欧州ばかりで、英語が母国語でない環境であることが多く、自分の下手くそな英会話力・聞き取り能力でもどうにかなっていたのだが、米国だとみんな英語しゃべるのが欧州の 2 割増で速く、学会発表よりもその他の場面の日常会話がしんどかった。会場は同じシカゴの McCormick Place だが、全体に人も増えている様子...
ASCO 2015


Figure 1 にまとめられているシスプラチンの有害事象一覧は、原著論文やレビューでシスプラチンの副作用について述べられる機会の少なくなった今となっては、貴重に思える。悪心・嘔吐など、年月に伴う支持療法の進歩でコントロールしやすくなった事象もあるが、腎機能障害や神経症状など、対処が容易ではないものもまだ数多い。
小児がんの教科書で、骨肉腫への化学療法に伴う難聴についての項目を参照した時に、書いてあるのがいきなり「何歳から補聴器をつけ始めるべきか」で絶望を覚えたのも(シスプラチン全体の歴史からしたら)決して遠い昔の話ではない。

MDアンダーソン癌センターに学ぶ癌診療 小児がん(丸善出版)

なお、本論文では聴神経障害への対策としてのチオ硫酸ナトリウムについても軽く言及しているが、まだデータの得られた試験の規模が小さく、現時点でのエビデンスは弱い(FDA でも未承認のまま)としている。

本レビューでは、数々のシスプラチンによる有害事象: 聴神経毒性、腎毒性、骨髄抑制、消化器毒性について、それぞれの機序とともに、その個人差の背景となりうる遺伝的素因についての説明がなされるが、いずれも GWAS などの大規模なゲノム解析によって得られたデータに基づく SNP や代謝経路の差異などの情報がほとんどで、例えばイリノテカンにおける UGT1A1 程度にまで実臨床での評価に耐えうる情報は得られていない(得られていたらもっと大々的に情報が広まっているだろうから当然ではあるが)。
ただ、古くから使用されており、晩期合併症の情報も得られる薬剤であること、治癒を目標とした治療(胚細胞腫瘍や小児がんなど)で大量に用いられる薬剤であること、今後もまだ完全にその役割が失われるまでには時間がかかりそうなことなどから、
継続して追及しておかなくてはならない領域であろう。
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頭頸部扁平上皮がんに対する抗 PD-1 抗体 Durvalumab と抗 CTLA-4 抗体 Tremelimumab の単剤または併用での効果を評価した第Ⅱ相試験: CONDOR

Safety and Efficacy of Durvalumab With or Without Tremelimumab in Patients With PD-L1–Low/Negative Recurrent or Metastatic HNSCC: The Phase 2 CONDOR Randomized Clinical Trial
(Siu LL et al. JAMA Oncol. 2019; 5(2): 195-203)

抗 PD-L1 抗体 Durvalumab については、他の免疫チェックポイント阻害薬同様、様々ながん腫で臨床試験が行われているが、非小細胞肺がんに対する PACIFIC 試験で大きな成果を挙げて以後は、ひと段落した感がある。

Durvalumab after Chemoradiotherapy in Stage III Non–Small-Cell Lung Cancer(Antonia SJ et al. N Engl J Med 2017;377:1919-29)抗 PD-L1 抗体 Durvalumab は、MEDI4736 の開発名でこれまでも多数のがん腫にて臨床試験が実施されている。Safety and antitumour activity of durvalumab
Ⅲ期非小細胞肺癌への放射線化学療法後に抗 PD-L1 抗体 Durvalumeb を使用する意義を評価した第Ⅲ相試験: PACIFIC Trial

しかし、本試験のように、抗 CTLA-4 抗体との併用についても積極的に検証されている薬剤でもあり、それぞれの臨床試験の結果は、どの領域にせよ気になるところ。

本試験は頭頸部扁平上皮がんについて、Durvalumab 単剤、Tremelimumab 単剤、Durvalumab/Tremelimumab 併用について、それぞれ有効性と安全性を評価した第Ⅱ相試験。Tremelimumab 単剤の効果をみた試験というと、かなり昔の悪性黒色腫に対するものしかなかった気がするので、かなり新鮮な気がする。
そして、本試験では PD-L1 陰性または低発現の症例を集めているのも特徴的。肺扁平上皮がんへの抗 PD-1 抗体の効果や、頭頸部がんの多くは喫煙が背景因子にある点などからは、免疫チェックポイント阻害薬は奏効しそうに思えるが、本試験の集団で得られた効果は、そうした背景知識からの予想からすると、小さく見える。
Durvalumab 単剤と Durvalumab/Tremelimumab 併用で OS に全然差が認められないという点も、例えば悪性黒色腫における CheckMate 067 での、Nivolumab 単剤群と Nivolumab/Ipilimumab 併用群に認められたような情報とは一致せず。

Combined Nivolumab and Ipilimumab or Monotherapy in Untreated Melanoma(Larkin J et al. N Engl J Med 2015;373:23-34)今年 (2015 年) の ASCO にはこれを聴きに来るためだけに来たという人も多そうな CheckMate 067。2013 年から発表されてきた Nivolumab + Ipilimumab の併用療法、その効果に対する評価を結実させた第Ⅲ相試験。Nivol
悪性黒色腫への Nivolumab + Ipilimumab 併用療法の効果を評価する第Ⅲ相試験: CheckMate 067

この辺り、がん腫ごとにきちんと有効な治療薬、治療セッティングをいちいち評価していかなくてはならないのは面倒ではあるのだが、適切な治療を追求していく上ではそうした面倒な道筋を避けて通るわけにはいかないということを思い知らされる結果と言える。

胞巣状軟部肉腫 (Alveolar soft part sarcoma; ASPS) レビュー

Diagnosis, Prognosis, and Treatment of Alveolar Soft-Part Sarcoma: A Review
(Paoluzzi L et al. JAMA Oncol. 2019; 5(2): 254-260)

満を持してというべきタイミングで登場した ASPS のレビュー。
悪性軟部腫瘍の中でもかなり希少なこの組織型について、薬物療法の観点からスポットが当てられたのは、2013 年の VEGFR 阻害薬、Cediranib の成績が発表されたところがはじめと言えるだろう。

Cediranib for metastatic alveolar soft part sarcoma. (J Clin Oncol. 2013; 31: 2296-302)

その後、Sunitinib や Pazopanib など、他の TKI での成績も発表されるとともに、血管新生阻害作用を持つ TKI については一定の奏効が認める組織型という見解が得られていた。
しかし、2018 年の CTOS における、Atezolizumab の成績 - 奏効率 40% - というのは、骨軟部腫瘍に免疫チェックポイント阻害薬は効かないという見解が定着しつつあったタイミングにて、大きく予想を覆す結果であった。

CTOS (Connective Tissue Oncology Society) Annual Meeting 2018都合 3 回目となる CTOS 参加。CTOS (Connective Tissue Oncology Society) Annual Meeting 2015 (20th)ポスター発表のため今回初めて参加。CTOS は「シートス」と読む。mTOR を「エムトール」と読むのと同じ理屈。会場はソルトレイクシティー。かなり寒いことを覚悟して臨んだが、一応スーツ+コート、手袋で外を歩けるくら
CTOS (Connective Tissue Oncology Society) Annual Meeting 2018

少し前から同様の症例報告はポツポツ出始めていたが、その際には(ASPS は若年者に多いこともあり)偶々 MSI-H の症例だったのかと考察がなされていたくらい。

Response to Immune Checkpoint Inhibition in Two Patients with Alveolar Soft-Part Sarcoma. (Cancer Immunol Res. 2018 Sep;6(9):1001-1007)

しかし、CTOS での結果を踏まえて、今回のレビューではいよいよ、ASPS を特徴づける TFE3 関連の染色体転座とそれに伴うシグナル伝達経路の異常を、免疫チェックポイントへの効果に結び付ける考察が登場している。本記事冒頭で満を持してと書いた所以である。

国内でも ASPS のマウスモデルによる転移モデルについての研究が進められている。

Modeling Alveolar Soft Part Sarcoma Unveils Novel Mechanisms of Metastasis. (Cancer Res. 2017 Feb 15;77(4):897-907)

今後の ASPS の方向性を知る上での取っ掛かりとして重要なレビューにて、今後の基礎・臨床研究について考えるにあたり、まず一読しておきたい。

AJCC による TNM 分類第 8 版における骨軟部腫瘍扱いについて: レビュー

New TNM classification (AJCC eighth edition) of bone and soft tissue sarcomas: JCOG Bone and Soft Tissue Tumor Study Group
(Tanaka K et al. Jpn J Clin Oncol 49: 103-7, 2019)

2017 年より第 8 版に改訂された AJCC による TNM 分類。

TNM悪性腫瘍の分類 第8版 日本語版 (金原出版)

改訂当時は頭頸部がんにおいて HPV 関連腫瘍が別立てされたことが個人的に大きなトピックだったが、実は骨軟部腫瘍も大きく変化している。従来は T 分類が腫瘍径と浅在性・深在性といった部位の分類しかなされておらず、いわゆる整形外科的な手術の範疇となる四肢や軟部組織の原発にはよく対応していたものの、頭頸部や後腹膜原発の肉腫を評価する上では活用しづらいところがあった。
この第 8 版において、原発臓器別にかなり細かく T 分類が設定されたことで、その定義に基づいた当てはめがやりやすくなったのである。一方で、上記の日本語版もそうであるように、「骨軟部腫瘍」として全体を見通すのは、原著からでは容易ではないつくりとなっていた。
それ故、こうした形で骨軟部腫瘍の T 分類にフォーカスしたレビューを用意していただけるのは大変ありがたい。
過去の版からの変化についても言及されているので、古い版での TNM 分類が採用されている論文を振り返る際にも助けになるだろう。

FGFR 標的治療レビュー

Fibroblast growth factor receptors as treatment targets in clinical oncology
(Katoh M. Nature Rev Clin Oncol 16: 105-22, 2019)

FGFR については、以前にも述べた通り、2014 年の ASCO で "developmental therapeutics" として JNJ-42756493(現: Erdafitinib)の第Ⅰ相試験が発表されたのが、臨床家に広く認知されたきっかけと考えている。

Phase I Dose-Escalation Study of JNJ-42756493, an Oral Pan–Fibroblast Growth Factor Receptor Inhibitor, in Patients With Advanced Solid Tumors(Tabernero J et al. J Clin Oncol 33:3401-3408, 2015) FGFR 阻害薬の第Ⅰ相臨床試験。2014 年の ASCO における D
FGFR 阻害薬 JNJ-42756493 の第Ⅰ相試験

その後約 5 年を経ての、2019 年初頭における現状についてまとめられたレビュー。

The FGFR Landscape in Cancer: Analysis of 4,853 Tumors by Next-Generation Sequencing(Helsten T et al. Clin Cancer Res; 22; 259–67, 2016)表題にある通り、4,853 名のがん細胞における FGFR に関係する遺伝子異常を調べ上げた論文。FGFR 阻害薬の臨床試験が徐々に発表されつつあるが、その多くはプレスクリーニングで生検を必要とし、FGFR 遺伝子異常(過
がん細胞における FGFR 遺伝子異常の Next-Generetion Sequencing による検索

High-Level Clonal FGFR Amplification and Response to FGFR Inhibition in a Translational Clinical Trial(Pearson A et al. s. Cancer Discov; 6; 838–51, 2016)シグナル伝達経路の上流、増殖因子を標的とした薬剤として 2014 年辺りを端緒に様々な薬剤の臨床試験が試みられている FGFR 阻害薬。Phase I Dose-Esca
FGFR 発現度と FGFR 阻害薬の奏効の関係

ただし、そこで紹介されている成果というのは、他のシグナル伝達経路との関連をはじめとした基礎医学的な情報がほとんどで、多くの FGFR 阻害を主な標的とした薬剤が現状、大きな成果を挙げているとは言い難い現状はそのままのよう。

臨床試験が行われてきた FGFR を標的とする薬剤は経口の小分子キナーゼ阻害薬が多く、抗体薬が少ないように見えている。それもあってか、例えば抗体薬物複合体 (ADC) などもあまり紹介されてきていない。

Antibody–drug conjugates for cancer therapy(Thomas A et al. Lancet Oncol 2016; 17: e254–62)とかく一般名が長くて難儀する抗体薬物複合体 (Antibody–drug conjugates) に関するレビュー。歴史的に、この類の薬で初めて臨床現場に登場したのは Gemtuzumab ozogamicin (GO: CD33 antibody + Calicheamicin)。Effect of gemtuzumab o
抗体薬物複合体 (Antibody–drug conjugates) レビュー

本レビューでは、ようやくわずかに ADC も登場してきていることが紹介されているが、例えば抗 CD30 抗体が ADC となった途端に大きな成果を挙げたようなドラスティックな効果はまだ報告されていない模様。

基礎研究の対象としてはまだまだ奥が深そうだが、標的治療の対象としてどこまで突き詰めていくべきなのかについては、臨床の立場からは疑問符が残ったままとなっている。
プロフィール

Kenji.N

Author:Kenji.N
2014年4月よりがん薬物療法専門医を標榜しております。現在、主に診療している領域は、頭頚部腫瘍、軟部肉腫、泌尿器腫瘍、悪性皮膚腫瘍、原発不明癌、など。

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